被災県の応援もっと -医師・作家 鎌田 實-

技術立国日本で信じられないようなことが起きた。東京電力福島第1原子力発電所が津波の被害を受け、一部の炉心で圧力容器と格納容器が破損した。これからも、しばらく放射能が漏れ続ける可能性がある。

南相馬市は福島第1原発から20~30キロ圏内にある。医薬品がない、医療用酸素がない、医師がいない、と救援要請があった。3回にわたり支援をしてきた。地震、津波、放射能、風評被害。今、日本は四つの困難の中で苦しんでいる。

情報すべて公開

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大地が汚れた。ホウレンソウなどの野菜が汚れた。水田も汚れているかもしれない。田植えに待ったがかかっている地域もある。原発の周りの農家は大変な思いをしている。

ぼくのブログに載せた詩の一部を紹介する。

「おまえはホウレンソウの苦しみがわかるか。自分に言ってみた。1キロあたり1万5200ベクレルの放射性ヨウ素が、検出されたホウレンソウの心がわかるか。ホウレンソウは安心して食べてもらいたいと思ったのに、人々の心を不安にした。ホウレンソウは悲しいだろうな。風評被害って下品。ちゃんと検査して情報公開されたものは、ぼくは食べる。チェルノブイリの救援に94回、医師団を出した。仲良くなった土地のおばあちゃんが作ってくれた料理を食べてきた。ぼくは元気だ。科学的にリスクを計算しながら、人間の信頼や絆を大切にしていたい。海や大地や空気を大事にしたい。二度とこんな事故をおこしてほしくない」

日本の中で、風評被害なんてやっている暇はない。しっかりと検査をして、すべて情報公開をする。暫定規制値を超えた場合は出荷停止にする。ここが大事。だから、出荷されたものは安心して食べよう。原発に近いからといって、買い控えをしてはいけない。被災県の福島や北関東をもっと応援しなくちゃいけない。

生き方変えよう

外国で日本全体の風評被害が起こり始めている。福島原発から遠く離れた九州の魚を、中国に売ろうとしたら拒否された。外国の風評被害と闘わなくちゃいけいないときに、日本国内で風評被害を起こしたり、差別をしたりしていては、外国を説得することなんてできない。

日本全体が沈没しないように、しっかりと日本の農業や畜産業や漁業を支えなければいけない。土壌改良など積極的に行うことによって、数年のうちに大地はきれいになる。

ぼくたちは海を大事にし、大地を大事にし、水を大事にし、大気を大事にする生き方に変えなければいけないときがきているように思う。徐々に、原発に頼らなくてもすむようなエネルギー政策の転換も必要だ。

新しい日本に生まれ変わるいい機会だ。世界の人にさすが、ニッポンと言わせたいもんだ。

■鎌田 實「被災県の応援もっと」、日本農業新聞 2011年4月25日 11版

鎌田實先生のプロフィール

かまた・みのる 医師・作家
1948年東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒。長野県茅野市の諏訪中央病院の医師になり地域医療に取り組む。現在は名誉院長。チェルノブイリとイラクの救援活動にも尽力。著書多数。

かまたみのるオフィシャルウェブサイト